「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によって何が変わるの? ※2025年4月の状況検証

先日「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されたというニュースがありました。デジタル社会といっても明確なイメージがわかず、そんな社会についていけるか心配です。

政府やデジタル庁は「デジタル社会」を積極的に進めていますね。
目指すのは「誰⼀⼈取り残されないデジタル社会」としていますのでご安心くださいと言いたいところですが、そんな簡単な話ではありませんね。
この記事では、私たちの日常生活に直接関係する部分を取り上げて、便利になるところや逆に問題だと思うところを説明してみます。
- この記事は2023年6月10日に執筆した当時の記述に対して、その後 (2025年4月現在) の状況を検証しています。
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とは
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以後は短く「重点計画」と言います) とは、これからの日本が⽬指すデジタル社会の姿と、それを実現するために必要な考え⽅や取組をまとめた資料で、2023年6月9日に閣議決定されました。詳しく確認したい方はこちらのページからご参照ください。
日常生活の観点から見た「重点計画」
「重点計画」本文は113ページもあり、一般市民にとっては抽象的で理解しにくい部分もあります。そこで、この記事では日常生活に密接に関わるポイントに焦点を絞り、解説したいと思います。
「重点計画」の取組
「重点計画」には、「安全・安心で便利な国民の生活や事業者の活動に向けた重点的な取組」が大きく10項目挙げられています。その中でも私たちの日常生活に直結しそうなものは次の取組です。
マイナンバーカード/デジタル行政サービス
- 健康保険証との一体化 … 2024年秋に健康保険証を廃止します。
- 一体化 (マイナ保険証) は、2024年12月2日から施行されました。 ただし、既存の健康保険証はその有効期限まで使用可能で、最長で2025年12月1日まで利用できます。 そのため、健康保険証自体が即座に廃止されたわけではなく、段階的な移行期間が設けられています。
- 運転免許証との一体化 … 「2024年度末までの少しでも早い時期」に一体化の運用を開始します。
- 一体化 (マイナ免許証) は、2025年3月24日から運用が開始されました。
手続の簡素化やオンライン講習受講というメリットがありますが、免許証の有効期限が記載されないなどデメリットもあります。
- 一体化 (マイナ免許証) は、2025年3月24日から運用が開始されました。
- 在留カードとの一体化 … 日本に暮らす外国人に携帯義務のある「在留カード」について一体化の実現を目指します。
- 一体化する法律が2024年6月に交付され、2026年6月までに施行される予定です。
- 年金情報との連携強化 … 現時点でも既に年金加入情報がマイナポータル上で確認できますが、加えて「ねんきん定期便」のプッシュ配信を実現します (2024年度を目処)。
- 「ねんきんネット」を通じた電子版「ねんきん定期便」の提供が2025年4月1日から開始されています。 また、マイナポータルを利用した「ねんきんネット」への連携機能も提供されており、これにより電子版「ねんきん定期便」の通知を受け取ることが可能となっています。
- 確定申告の利便性向上 … 現時点でもマイナポータルからe-Taxに必要情報を連携する仕組みができていますが、今後、企業からの源泉徴収票のオンライン提出などを進め、「記入済み申告書(書かない確定申告)」の実現を図ります。
- マイページの利用、確定申告時のマイナンバーカードの読み取り回数削減、スマホ専用画面の導入、医療費通知情報のマイナポータル連携など、2023年1月より利便性が向上しています。
- 引越し手続のデジタル化推進 … 転出・転入手続の完全オンライン化を目指します。
- 2023年2月より、全ての市区町村でマイナポータルを通じた転出届提出と転入予約が可能となりました。
また、2027年7月からは、スマホ用電子証明書搭載サービスに対応し、スマホだけで転出届の提出や転入予約が可能となっています。
- 2023年2月より、全ての市区町村でマイナポータルを通じた転出届提出と転入予約が可能となりました。
- 死亡相続手続のデジタル完結 … 死亡に関する手続 (死亡届および死亡診断書の提出) のオンライン化に向けて、厚生労働省・法務省とともに課題の整理を行います。
- 死亡・相続手続のデジタル完結はまだ実現しておらず、現在は一部手続(相続登記のオンライン申請や法定相続情報証明制度など)のみが対応済です。戸籍証明書の電子交付などが今後の課題とされ、2026年度末を目標に本格的なデジタル化が進められています。
- 市民カード化の推進 … 図書館カード、印鑑登録、手ぶら観光やオンラインチケットなど、自治体による利活用を支援します。
- マイナンバーカードの市民カード化は、図書館カードや診察券、公共施設利用証などを一枚に集約する取り組みとして、各自治体で推進されています。美濃市や宿毛市などが先行事例となっており、地域のデジタル化と住民サービスの利便性向上が期待されています。
- スマートフォンへの搭載 … スマートフォン用電子証明書の導入を進め (Android端末は2023年5月導入済み。iOS端末についても検討中)、利用できるサービスの拡充を進めます。
- iPhoneへのマイナンバーカード機能の搭載は、2025年春頃を予定しているようです。
Appleは2025年春の後半にiPhoneにマイナンバーカードを搭載可能にすると発表しています。
- iPhoneへのマイナンバーカード機能の搭載は、2025年春頃を予定しているようです。
アナログ規制の見直し
- アナログ規制の横断的な見直し … デジタル化の効果を最大限発揮するため、従来のアナログ規制を一掃します (2024年6月を目処)。
- デジタル庁が『アナログ規制の見直し状況に関するダッシュボード 』を公開しています。2025年3月14日現在では、見直しが必要な規制6,404に対して、見直しが完了した規制が6,219となっています。
- 官報の電子化 … 早期に法案を国会提出します (2023年央までに論点整理を完了)。
- 2025年4月より実現しています。発行から原則90日間、官報全体を無料で閲覧・ダウンロードできます。
- 手続のデジタル完結 … 申請手続をデジタル化するとともに、手続結果の回答である「処分通知」についてもデジタル化に取り組みます。
- 行政手続のデジタル完結に向けて、申請手続のオンライン化は進んでいますが、処分通知のデジタル化は依然として遅れています。2023年度時点で処分通知のオンライン化率は17%にとどまり、政府は2025年度までに約6割の手続で対応を目指しています。こちらを参照ください→『行政手続のデジタル完結に向けた横断的調査・点検の状況について』
国・地方公共団体を通じたDXの推進
- 自治体窓口のデジタル化 … 自治体における手続ついて「書かない」「待たない」「迷わない」「行かない」窓口を加速します。
- 自治体窓口のデジタル化は、「書かないワンストップ窓口」やオンライン申請システムの導入などを通じて全国的に進められています。こちらを参照ください→『自治体DXの取組に関するダッシュボード』
- 自治体キャッシュレス … 既に導入済みの自治体もある、戸籍取得の手数料支払等のキャッシュレス (クレジットカードや⚪︎⚪︎ペイでの支払) の拡大を図ります。
- 自治体でキャッシュレス決済を導入する動きが広がっていますが、導入状況には自治体間で差があり、今後の拡大が期待されています。
準公共サービスの拡充
- 健康・医療・介護分野 … 電子カルテの標準化 (2024年度中に開発着手)、電子処方箋の促進 (2025年3月までに全医療機関・薬局への普及)、助成券・診察券などとの一体化、母子手帳との連携強化 (2023年度中に一部自治体で運用開始)、オンライン診療の促進を進めます。
- 厚生労働省により『医療DX令和ビジョン2030 』が推進されています。電子カルテの標準化について試行運用を開始、電子処方箋の普及は2025年度中に概ね全ての医療機関・薬局への普及を目指しています。
- 教育・こども分野 … 学校等と家庭のコミュニケーション等の公務のデジタル化、保育所入所手続に必要な就労証明書のオンライン申請 (2023年秋を目処) を進めます。
- 学校と家庭のコミュニケーションのデジタル化や、保育所入所に必要な就労証明書のオンライン申請は一部で実現していますが、全国的な普及にはまだ課題が残ります。2023年秋以降、順次マイナポータル経由での申請が可能となり、対応自治体は徐々に増えています。
事業者向け行政サービスの拡充
- e-Govの拡充 … 法人、個人事業主のオンライン申請への適用拡充を図ります。
- e-Gov電子申請で対応可能な行政手続が順次拡大されています。最新の情報はこちらをご参照ください→『e-Gov電子申請 』
- GビズIDの普及 … 法人、個人事業主が様々なサービスにログインできる認証サービス「GビズID」について、連携行政サービス流拡充を進めます。
- GビズIDで利用できる行政サービスが順次拡大されています。具体的なサービス一覧はこちらをご参照ください→『GビズIDで利用できる省庁・自治体のサービス 』
日常生活におけるメリット
ここまでは「重点計画」の取組内容を抜粋して紹介しましたが、具体的に私たちが日常生活で恩恵を受けることはどんなことでしょう。
マイナンバーカード・マイナポータルの利用拡大
マイナンバーカードが、健康保険証、運転免許証、外国人の方の在留カード、医療機関の診察券と一体化することで、身分・資格証明等のために複数のカードを持ち歩く必要がなくなることは便利ですね。さらにスマートフォンへのマイナンバーカード情報の搭載が実現できると一層便利です。
また、マイナポータルと年金情報の連携もありがたいです (過去の年金記録問題の記憶もあるので、自身で定期的に確認することが必要だと感じています)。
e-Taxによる確定申告の入力項目が減る (企業からオンライン提出された源泉徴収票の自動連携などで実現) ことも歓迎できます。これまで書面で確定申告されていた方のe-Tax利用も増えることでしょう。
手続のデジタル化
市区町村役場における手続のデジタル化 (「書かない」「待たない」「迷わない」「行かない」窓口) は魅力的です。引越し手続、死亡相続手続、保育所入所手続など、市民生活に密着する手続が簡便化されることには恩恵があります。
手続料金の支払いがキャッシュレス化することも歓迎です。遠方の自治体から郵送で戸籍謄本を取得する際など、これまでは支払いに「定額小為替」をわざわざ購入する必要がありましたから。
問題点
「重点計画」の推進で便利になることは多々ありますが、ここでは一般市民である私たちにとって問題や心配事となることを挙げてみます。
デジタルデバイド (情報格差) の助長
私たちが一番心配になることは、今後のデジタル社会の加速についていけるか不安ということですよね。
ネットやパソコンを使い慣れている方はますます便利さを享受できる一方、デジタルが不得意な方は切り捨てられてしまうのではないかと心配になってしまいます。
「重点計画」では、「地理的な制約、年齢、性別、障害や疾病の有無、国籍、経済的な 状況等にかかわらず、誰もが日常的にデジタル化の恩恵を享受でき、様々な課題を解決し、 豊かさを真に実感できる『誰一人取り残されない』デジタル社会の実現を目指す」と明言しており、誰もが簡単に利用できるサービスを提供しようという国の意思は感じられます。
私どもとしては、行政に対して、困った時に助けになる窓口の設置や、困ったときの対処法が簡単に調べられるような情報を提供したり、より一層の取り組みを期待します。
また、困った時には、行政手続の専門家としての行政書士が助けになるケースも考えられます。
個人情報の不正利用
もう一つの心配は、自分自身の幅広い個人情報がデジタル化されることで、それが漏洩した時に不正に利用されることが不安です。
直近のニュースでもマイナンバーカードへの公金給付金受取口座の誤登録などがあり、私たちのデジタル化推進への信頼が低下していることは否めません。
政府、デジタル庁には、デジタル化への取組において、フェイルセーフを軸にしたシステムの構築、データ管理の厳格化、構築プロセスの監査、システムやデータを扱う人への教育など、リスク対策を徹底することを期待します。また取組の進捗状況や問題発生などの情報開示にも期待します。
とは言え、新しい取組にはリスクを取る必要性がある、また諸外国のデジタル化への追随が必要との論点も理解できます。
私たちにできることは、政府の取組をよく監視して問題点に声を上げることと、一方では自分自身の個人情報の管理を徹底することかと思います。
まとめ
この記事では、先日閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」について、私たちの日常生活に直接関わるところを解説し、また、私見となりますが、これによって私たちの生活が便利になるところと問題となることを説明いたしました。
手続がデジタル化されて便利になるとは言え、忙しくて手間を取りたくない方や、新しいことを覚えるのが苦手な方も多くいらっしゃると思います。
ぜひ一緒に考えさせてください。
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