“3号分割だけで大丈夫” は本当? 2008年4月以降の結婚であっても合意分割が必要なケースとは

離婚を決断し、夫と年金分割について話し合っています。2008年4月以降に結婚していたので、『3号分割』の対象になりますよね?

そうですね。ただし、『3号分割』が対象とするのは扶養に入っていた期間だけです。それ以外の期間がある場合は、『合意分割』も活用する必要があります。

そうなんですね!
扶養に入っていなかった期間も分けてもらえるなら、少し安心しました。

ご安心ください。この記事では、3号分割だけでは足りないケースや、合意分割が必要になる理由について、分かりやすく解説していきますね。
- この記事では、夫が主に会社員として収入を得て、妻の方が収入が低いものとして説明します。典型的な例を説明する意図で、他意はありませんのでご了承願います。
年金分割制度の基本と被保険者の種類
離婚時の「年金分割」には、2つの制度が存在します。それが「合意分割」と「3号分割」です。それぞれ適用される条件や対象期間が異なるため、まずは制度の違いと、それに関係する被保険者の種類について整理しておきましょう。
合意分割とは
「合意分割」は、2007年4月の法改正により導入された制度です。
対象となるのは、婚姻期間中に配偶者(多くの場合は夫)が厚生年金に加入していた期間で、その間に形成された報酬比例部分(=将来の年金額に反映される部分)を、夫婦間で分割できるという仕組みです。
この制度は、2007年4月以降に離婚した夫婦に適用され、対象となる年金期間は、婚姻期間中であれば2007年より前の期間も含むことができます。
- 対象は婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)
- 分割割合は原則2分の1(合意があればそれ以下も可)
- 配偶者の同意が必要(協議または家庭裁判所の審判)
3号分割とは
一方、「3号分割」は、2008年4月以降に導入された新しい仕組みです。
対象は、厚生年金に加入している配偶者(第2号被保険者)に扶養されていた第3号被保険者(多くの場合は専業主婦・主夫)の期間に限られます。
- 対象となるのは、2008年4月以降に第3号被保険者であった期間のみ
- 分割割合は2分の1で固定
- 配偶者の同意が不要
つまり、「扶養に入っていた期間だけが対象」であり、それ以外の期間は含まれません。
第1号〜第3号被保険者の違いとは?
この「3号分割」の理解に欠かせないのが、被保険者の種類です。年金制度上、20歳以上60歳未満の人は、以下のいずれかに分類されます。
被保険者の種類 | 該当する人の例 | 加入制度 | 保険料の支払い方法 |
---|---|---|---|
第1号 | 自営業・フリーランス・無職など | 国民年金のみ | 自分で納付 |
第2号 | 会社員・公務員など | 厚生年金+国民年金 | 勤務先が天引きし一部負担 |
第3号 | 第2号に扶養される配偶者(年収制限未満のパートなど) | 国民年金のみ | 配偶者の厚生年金保険料から支払い |
「3号分割」が適用されるのは、この中の第3号被保険者だった期間です。
もし扶養から外れていた期間(=第1号または第2号だった期間)があれば、その部分については、「合意分割」で取り決める必要があるのです。
次章では、実際によくある誤解について解説し、なぜ3号分割だけでは足りないのかを詳しく見ていきます。
「3号分割だけで足りる」と思ってしまう理由
2008年4月以降に結婚した方の中には、「年金分割は3号分割で自動的に半分になる」と思い込んでいる方が少なくありません。
実際、相談の場でも「もう自動的に半分もらえるから大丈夫ですよね?」という声をよく耳にします。
では、なぜこのような誤解が生まれてしまうのでしょうか?
「3号分割=自動で2分の1」というイメージの広まり
3号分割は、相手の合意がなくても自動で年金を2分の1に分けられる制度であるため、非常にわかりやすく、「お得な制度」として広まってきました。
特に、
- 「自動で分けられる」
- 「配偶者の同意がいらない」
- 「2008年4月以降に結婚していれば対象になる」
という要素が強調されがちで、「年金分割は3号分割だけで十分」と誤解されやすくなっています。
実際には「第3号被保険者」でなかった期間が含まれることが多い
しかし現実には、多くの人が婚姻期間中に扶養から外れている期間(=第1号または第2号被保険者)を持っています。
例えば、次に当てはまる期間が該当します。
- 一時的にパート収入が増えて、扶養から外れていた
- 正社員になって厚生年金に加入した
- 自営業・フリーランスとして働いていた
- 配偶者が退職や転職で第2号でなくなり、第3号資格がなくなっていた
これらの期間はすべて「3号分割」の対象外となるため、合意分割によって分ける必要があるのです。
まとめ:3号分割だけでは全体の一部しかカバーできない
3号分割が対象とするのは、あくまで「2008年4月以降の第3号被保険者期間」に限られます。
それ以外の婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)については、合意分割で対応しなければ分けられません。
この点を知らずに3号分割だけで手続きを終えてしまうと、本来受け取れるはずだった将来の年金額を取りこぼしてしまうリスクがあります。
次章では、実際に合意分割が必要になる具体的なケースを3つご紹介します。
【実例で検証】合意分割が必要になる3つの代表ケース
ここでは、「3号分割だけでは足りない」典型的なケースを3つご紹介します。
いずれも、実際の相談現場で非常によく見られる事例です。自分の状況に当てはまるものがないか、ぜひチェックしてみてください。
ケース①:途中で扶養を外れていた
たとえば、結婚後しばらくは専業主婦として第3号被保険者だったものの、のちにパートや正社員として働くようになり、扶養を外れて第1号(自営業等)や第2号(会社員)になった場合です。
このような「第3号でない期間」は3号分割の対象外。
その期間の厚生年金(夫の報酬比例部分)を分けてもらうには、合意分割が必要です。
ケース②:夫婦ともに厚生年金に加入していた(共働き)
共働きで、夫も妻も会社員というケース。
この場合、どちらも第2号被保険者となるため、妻は第3号には該当しません。
したがって、3号分割は適用されず、年金分割をするには合意分割の手続が必要です。
ケース③:夫が第2号でなくなった時期があった
一見見落とされがちなのがこのケースです。
夫が転職や退職により会社員(第2号)でなくなった期間があると、妻はその間、第3号の資格を失います。
つまり、いくら妻が無職でも、その期間は3号分割の対象にはならないのです。
このような期間についても、やはり合意分割をしておかないと、年金を分けてもらうことはできません。
ポイント:実は“3号でない期間”は珍しくない
3号分割は便利な制度ではありますが、適用される期間は意外と限られているのが実情です。
- 扶養を一時的に外れていた
- 共働きだった
- 配偶者が第2号でなかった
こうした期間があるかどうかは、実際の記録(※「年金分割のための情報通知書」など)を見なければ正確に判断できません。
「年金分割のための情報通知書」とは
「年金分割のための情報通知書」とは、年金分割を行うにあたって、分割の対象となる厚生年金の加入記録などを確認するための公的な資料です。
この通知書には以下のような情報が記載されています。
- 配偶者の厚生年金加入期間(婚姻期間中)
- 3号分割の対象となる期間
- 合意分割の対象になる報酬比例部分の金額や期間
この情報通知書を取得することで、どの期間が3号分割の対象で、どの期間が合意分割の対象なのかを客観的に把握することができます。
そして何より安心なのは、この情報は、配偶者に知られることなく取得することができるという点です。
年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すれば、ご本人の基礎年金番号と婚姻期間の証明(戸籍謄本など)を添えるだけで請求が可能です。
相手の署名や同意は不要で、相手に通知がいくこともありません。
離婚を検討している段階で、まずはこの情報通知書を取得してみるのがおすすめです。
次章では、年金分割の具体的な手続の流れや、合意分割を進める際の注意点について解説します。
手続の流れと注意点
年金分割を行うには、対象期間の確認から、協議・書面の作成、そして実際の請求まで、いくつかのステップを踏む必要があります。
ここでは、スムーズに手続きを進めるための基本的な流れと、注意すべきポイントをご紹介します。
- ステップ 1:「情報通知書」で対象期間を確認する
- まず最初に「年金分割のための情報通知書」を取得しましょう。
この通知書を確認することで、
• 3号分割の対象となる期間
• 合意分割の対象となる報酬比例部分
• 分割できる厚生年金の金額的な目安
などを、客観的なデータとして把握することができます。
そして何より安心なのは、相手に知られずに取得できるという点です。
年金事務所に「情報提供請求書 」を提出すれば、自分の基礎年金番号と婚姻期間の証明書(戸籍謄本など)を添えるだけで取得が可能です。相手の同意や署名は不要で、相手に通知がいくこともありません。
- ステップ 2:合意分割には合意の証明が必要
- 3号分割は、原則として離婚後に申請すれば自動的に適用されますが、合意分割を行うには、当事者間で年金を分けることについて合意していることが必要です。
そして、その合意を証明する方法として、次のいずれかの対応が求められます。
【いずれかで対応】
• 公正証書
• 家庭裁判所の調停調書または審判書
• 夫婦がそろって年金事務所に出向き、その場で合意する方法
つまり、必ずしも事前に文書を用意しておく必要はなく、双方が年金事務所に同席できる場合は、その場で合意を伝えることでも手続は可能です。
ただし、相手が協力してくれない場合や、後々のトラブルを防ぐためには、離婚前に公正証書を作成しておくことをおすすめします。
※なお、離婚協議書(私文書)だけでは、年金事務所での合意分割請求には使用できません。請求には、公正証書や調停調書など、公的な証明力のある文書が必要です。
行政書士は公正証書のサポート(実務に即した原案作成、公証役場との文面や作成スケジュールの調整)でお役に立てます。当事務所のサービス内容はこちらをご参照ください。
- ステップ 3:年金事務所で分割請求の手続を行う
- 離婚が成立し、必要書類を揃えて年金事務所で分割請求の手続 を行います。
主な必要書類は以下のとおりです。
• 年金分割のための情報通知書
• 年金手帳または基礎年金番号通知書
• 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
• 合意分割に必要な書類(公正証書、調停調書など)
• 離婚の事実が確認できる公的書類(戸籍謄本、離婚届受理証明書など)
請求は離婚成立から2年以内に行う必要があるため、時間には注意が必要です。
まとめ
「2008年4月以降に結婚していれば、3号分割だけで年金を半分もらえる」と思っていた...。
実際には、扶養から外れていた期間や共働きだった期間があると、3号分割だけでは足りず、合意分割の手続が必要になることもあります。
合意分割には、公正証書や調停調書など合意内容を証明する書類が必要ですし、離婚成立から2年以内という期限もあります。
知らずに手続きを逃してしまえば、将来の年金額に大きな差が出てしまう可能性も。
年金分割は、老後の生活に関わる大切なテーマです。
「自分の場合はどうなるのか?」と迷ったら...、
ぜひ一緒に考えさせてください。
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