離婚した後も子供と同じ姓を名乗るには? 婚氏続称ってどういうこと?
離婚して子供と新しい生活を始めることにしました。子供の苗字を変えたくないので、私も子供も夫の姓を使い続けたいと思います。どういう手続をすれば良いのですか?
お任せください。
お子さんが学校に通っていると、親の事情で苗字が変わることを避けるために、夫の姓を使い続けるケースがありますね。
何も意識せずに離婚届を出すと母親の姓だけ旧姓に戻ってしまうのですが、しかるべき手続をすることで、母親も結婚中の姓を使い続けることができますよ。
ここではその手続について説明しますね。
- この記事では、夫婦が結婚中に夫の姓を名乗っているものとして説明します。典型的な例を説明する意図で、他意はありませんのでご了承願います。
離婚後の妻と子の姓
妻の姓
まず、離婚後の妻の戸籍と姓の選択について下の表に整理します。
パターン | 離婚後の妻の姓 | 手続方法 | 説明 |
---|---|---|---|
1 | 元の姓に戻す (復氏) | 離婚届の「婚姻前の氏に戻る者の本籍」欄の「✔妻は」「✔もとの戸籍にもどる」を選択し、結婚前の本籍地、筆頭者名を記入する。 | 通常は実家の父親の戸籍に戻ることになります。ただし、ご両親が他界されているなどで元の戸籍が残っていない(除籍となっている)場合には選べません。 |
2 | 離婚届の「婚姻前の氏に戻る者の本籍」欄の「✔妻は」「✔新しい戸籍をつくる」を選択し、自分で決めた本籍地を記入する。 | 妻を筆頭者とした新しい戸籍が作製されます。子供の姓を妻に合わせたい場合 (別途、裁判所での手続きが必要ですが) はこちらを選択しておきます。 | |
3 | 引き続き夫の姓を名乗る (婚氏続称) | 離婚届の「婚姻前の氏に戻る者の本籍」を無記入とする。 離婚届と同時に「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出する。 | 妻を筆頭者とした新しい戸籍が作製されます。 手続の詳細はこの後で説明します。 |
子の姓
次に子供の姓についてですが、基本的には結婚中に使っていた夫の姓のまま変わりません。たとえ、妻が親権を担う場合であっても子供は元の夫の戸籍に残ったままとなります。
子供を妻の姓に変更したい場合は、家庭裁判所に申立てが必要となりますが、この記事では詳しくは触れません (パターン2)。
妻が引き続き夫の姓を名乗った場合、子供と姓は同じになりますが、さらに妻の戸籍に子供を入れるには別途手続が必要となりますので後述します (パターン3)。
妻が引き続き夫の姓を名乗るには
根拠となる法律
妻が引き続き夫の姓を名乗るのは、先に表に挙げた表のうち3番目のパターンになります。民法および戸籍法では次のように定められています。
【民法】
(離婚による復氏等)
第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
【戸籍法】
第七十七条の二 民法第七百六十七条第二項(同法第七百七十一条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
ここでいう「戸籍法の定めるところにより届け出る」ための書類が「離婚の際に称していた氏を称する届」になります。
離婚の際に称していた氏を称する届
この届出は「婚氏続称の届」とも呼ばれます。下の表に手続きをまとめておきます。
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
届出人 | 妻 | 正確には「離婚の際の氏を称し続ける当事者」です。 |
届出書類 | 離婚の際に称していた氏を称する届 | 記入用紙は役所の窓口または役所のホームページで入手できます。 |
必要書類 | ※2024年3月より戸籍謄本の提出は不要となりました。 | |
届出先 | 本人の住居地または本籍地の市区町村役場 | 郵送でも受け付けてくれる自治体がありますが、離婚届と同時に、役所に直接提出することをお勧めします。軽微な間違いはその場で修正できますし、離婚が成立したらその場で新しい戸籍謄本を請求できます。 |
届出期限 | 離婚の日から3ヶ月以内 | 離婚届と同時に提出することをお勧めします。そうでないと、一旦旧姓に戻ってあらためて結婚中の姓に変更することになるため、運転免許証や銀行口座などの変更が二度手間になってしまいます。 また、期限を超えると、裁判所に姓の変更を申立てる別の手続きが必要となります。 |
夫の許可 | 不要 | あくまでも妻の側のみで手続が可能です。夫の方で却下するような手続や法的根拠はありません。また、新しい戸籍は元夫には取得できません。 |
離婚後の妻の戸籍に子を入れるには
離婚後に妻が元夫の姓を名乗った場合には、子供と苗字が同じになるので日常生活上の大きな問題は解消すると思います。それでも、妻の新しい戸籍に子供を入籍させたい場合は、「子の氏の変更」を裁判所に申立てて許可を得た上で、役所に入籍の届け出をする必要があります。
あれ? 母親と子供の苗字は一致しているはずなのに、「子の氏」を変更する必要があるの?
そうなのです。苗字は一緒でも「氏」としては別の扱いです。
「氏」は「戸籍」と考えると納得できると思います。
同じ苗字でも戸籍が違うので、母親の戸籍に入れるためには、あらためて別途手続が必要だとご理解ください。
根拠となる法律
子の氏の変更と入籍は次の法律に定められています。
【民法】
(子の氏の変更)
第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
【戸籍法】
第十二節 入籍
第九十八条 民法第七百九十一条第一項から第三項までの規定によつて父又は母の氏を称しようとする者は、その父又は母の氏名及び本籍を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
子の氏の変更許可
子供を母親の籍に入れるには、まずは裁判所へ申立てて許可を得る必要があります。
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
申立人 | 子 (ただし15歳未満のときは法定代理人) | 法定代理人は親権者が該当します。離婚届に「妻が親権を行う」と書いたはずですね。 |
申立書類 | 子の氏の変更許可の申立書 | 記入用紙と記入例は裁判所のホームページ(下記)で入手できます。 ・子の氏の変更許可の申立書(15歳以上) ・子の氏の変更許可の申立書(15歳未満) |
必要書類 | 子の戸籍謄本 父の戸籍謄本 (離婚の記載のあるもの) 母の戸籍謄本 (離婚の記載のあるもの) | 役所で離婚届を提出したときに、戸籍に離婚の記載が反映される時期を聞いておき、その後に戸籍謄本を取得する必要があります 父の戸籍謄本(子が含まれる)と母の戸籍謄本の2通が必要となります)。 |
申立先 | 子の住所地の家庭裁判所 | 離婚後に遠方に転居する場合には、子の住民票を母方に移しておくと便利かもしれません。 管轄の裁判所はホームページ(下記)で確認できます。 ・裁判所の管轄区域 |
費用 | 子1人につき800円(収入印紙) 連絡用の郵便切手 | 連絡用の郵便切手の金額は、申立先の裁判所に確認してください。 |
入籍届
裁判所で子の氏の変更の許可が得られたら、ようやく子供を母親の戸籍に入れることができます。
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
届出人 | 子 (ただし15歳未満のときは法定代理人) | 子の法定代理人は、離婚時に決めた親権者となります。 |
届出書類 | 入籍届 | 記入用紙は役所の窓口または役所のホームページで入手できます。 |
必要書類 | 子の氏変更許可書謄本 子の戸籍謄本 母の戸籍謄本 | 「子の氏変更許可書謄本」は裁判所への申立が許可されたときに発行されます。戸籍謄本は、届け出る役所が本籍地の管轄である場合は提出不要です。 |
届出先 | 入籍先の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場 | |
届出期限 | 特になし |
まとめ
この記事では、離婚した後に、母親も子供もこれまでの姓を使い続けるための手続を説明いたしました。
また、子のいない妻についても、仕事の都合などで旧姓に戻したくない場合もあるかと思いますが、手続については同様です。
離婚に際しては様々なお悩みがあるかと思いますが、この記事がその一助となることを願っています。当事者の方は、ほかにもお困りごとがあるかと思います。
ぜひ一緒に考えさせてください。
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